Vol.4 清水彰人さん

列伝第4回

 

◆現在、ライフル射撃の選手として活躍中ですが、幼少期はどのような生活を送っていましたか。
私は小学4年生から少年野球チームに所属しており、ライフル射撃とは無縁の生活を送っていました。しかし、きっかけは突然で、小学6年生の時、通っていた小学校の先生にライフル射撃の体験会に来てみないかと誘われ、パンフレットをもらいました。ルールはもちろん、競技自体全く知りませんでしたが、他の人がしていないことに挑戦したい気持ちもあって、少し興味がわきました。徳島市の入田町に練習できる施設があって、月に2回程度、連盟の方が指導していたので、家族もしっかりした指導者がいるのであれば安心だと、反対はされませんでしたね。最初は的に全く当たりませんでしたが、慣れ始めると通うことが楽しみになっていました。中学生になってもここで練習したい気持ちがあったので、団体競技である野球部には入部せず、個人競技、さらには体を鍛える意味もあって、剣道部に入部することにしました。ライフル射撃に関しては、中学2年生の時に小中学生対抗の全国大会があって、そこで優勝したことで、もっとライフル射撃が中心の生活を送りたいと考えるようになりましたね。

◆中学3年生の時から鳴門市を離れ、上京することとなったきっかけを教えてください。
中学2年生の時(2013年)、2020年東京オリンピックの開催が決定しました。また、大会で優勝したことで、東京にあるJOCエリートアカデミーで練習してみないかと連盟の方から推薦がありました。ここへ入校するには連盟の推薦状が必要なので、ありがたいお話ではありましたが、家族や友人と離れる寂しさ、また、作文や集団面接が課されるので、その壁を乗り越えられるか不安はありました。しかし、競技者として高いレベルで練習がしたかったことに加え、オリンピック出場への憧れから、上京することを決意しました。

◆実際に入校してみてどうでしたか。
JOCエリートアカデミーの7期生(中学3年生~高校3年生)として入校し、味の素ナショナルトレーニングセンター(東京都北区)という施設で、平日は4時間、休日は7時間程度、練習に打ち込みました。ライフル射撃にも種目が多くありますが、18歳以下は法律の縛りのないビームライフルか、手続きをしてもエアライフルしか所持できないこともあって、私はエアライフルを中心に取り組んでいました。オリンピック出場経験者や大会等で活躍している方から、指導やアドバイスがもらえ、施設も充実していたので環境はよかったですよ。ただ、これまで家族と同居して生活していたので、初めての寮生活や東京での移動には苦労しましたね(笑)。勉強面では、国内大会への参加準備や海外での大会遠征等で授業に出席できない時期もありましたが、高校はライフル射撃を通じて推薦合格を果たすことができ、さらに練習に励みました。高校生になると、外出もほとんどしなかったですね。練習が休みでも自主練習しないと不安になりますから。健康管理や体づくりも意識し出すようになり、体重を増やそうと食事の量を増やすなど、本当にライフル射撃のことを中心に考えた4年間でした。

◆普段はどのような練習をするのでしょうか。
練習といっても、特に難しいことは行いませんよ。ライフル射撃は静止した的に向かって打ちますが、私は10mエアライフル(空気銃使用)のうち、立射60発に取り組んでいました。練習は毎日ほとんど同じ内容で、銃を撃つ練習や動体視力を鍛えるトレーニング、ウエイトトレーニングが中心です。銃は重さが約5キロあるので、ウエイトトレーニングの効果もあって体が大きくなり、持つのが少し楽になりましたね。また、アカデミーでは指導もありますが、どちらかと言えば自分で考えて練習は行っていました。参加した試合での課題を振り返り、どのように練習すれば次の試合に活かされるかなど、テーマを決めて取り組んでいました。

◆現在はアメリカにあるウエストバージニア大学へ留学中ですが、もともと海外志向があったのでしょうか。
高校2年生になると、卒業後の進路はどうしようかなと考え始めました。普段の練習や大会での活躍もあって、国内の大学からも多く声がかかり、大学へ進学しようと早い時期から決断していました。そんな時、高校3年生の夏でした。偶然にも2016年リオデジャネイロオリンピックでライフル射撃の金メダリストとなった、イタリア代表のニッコロ・カンプリアーニ選手と練習する機会があったんですよ。私の試合結果や練習を見て、ウエストバージニア大学で射撃を学べば、より高い技術を磨くことが出来ると薦めてくれました。ほぼ国内の大学への進学が決まってはいましたが、海外の優れた選手たちの中で自分をもっと磨きたいという気持ちが湧いてきて、両親に相談しました。両親はライフル射撃の情報や技術だけではなく、私に国際社会に対応できる人材に育って欲しいとの想いで賛同してくれたので、挑戦することとなりました。

◆大学での生活や練習はどうですか?
海外にはこれまで遠征で訪れていますが、生活となればまだまだ慣れませんよ(笑)。キャンパスはウエストバージニア州にあって、日本人も通っているので安心感はありますが、一定の英語レベルになるまで正規の授業には出られないので、今はIEP(集中英語講座)で勉強しているところです。また、日本の大学と異なり、勉強の成績が悪いと部活動に入部していても大会に参加できない、さらには強制退部となることもあります。IEPの私は射撃部に正式入部はできないので、部員が練習していない時に週3回、1人で練習している状態です。勉強で一定の成果が出れば、チームに加入が出来るので、早く加入できるよう成長したいですね。

◆ライフル射撃を始めてから嬉しかったこと、辛かったことはありますか?
嬉しかったことは2つあって、1つ目は高校3年生の時に、ドイツのズールで開催された世界ジュニア選手権のエアライフル団体戦でメンバー入りし、優勝を果たしたことです。この時の決勝戦でのスコアが世界ジュニア新記録であって、みんなで喜びを分かち合うことができました。2つ目も高校3年生の時の大会ですが、静岡県藤枝市で開催された全日本選手権で、社会人の大会での初優勝を飾りました。優勝は本当に格別なもので、ライフル射撃をしていてよかったと改めて感じました。一方、辛かったことは、中学3年生の時に結果がなかなか出なかったことですね。ライフル射撃にもランキングがあるんですけど、なかなか上位に食い込むことが出来ずに結果も伴わなかったので、本当に悔しかったです。ライフル射撃をやめて、鳴門に帰りたいと考えたぐらいですから。それでも、応援してくれている家族やお世話になっている方のためにも、ここで帰るわけにはいかないと思いとどまりました。自分を信じて練習してきて、よかったです。

◆競技力向上のため、練習や日常生活で心がけていることはありますか?
目を疲れさせないように、大会直前になるとスマートフォンやタブレットなどの端末を、必要最低限の使用にするようにしています。また、中学3年生の時に腰痛を発症し、トレーナーにストレッチが足りないと指摘されたので、練習前後以外にも入浴後、就寝前としっかりと行うように心がけています。ライフル射撃の世界でも怪我で選手生命を絶たれるケースがありますから。私は腰痛以外に大きな怪我はしたことがないので、これからも長く選手として活躍できるよう、健康管理には十分気をつけたいですね。

◆大会の雰囲気はどうですか?緊張する性格ですか?
たぶん誰よりも緊張していると思います(笑)。でも、絶対に自分だけではなく、みんな緊張しているでしょうし、「練習してきたのだから、大丈夫」と自分を信じ、ポジティブに捉えるように心がけています。大会は、予選では10.9点が満点の60発を75分以内に打ちます。私の場合は60分ぐらいでいつも打ち終わりますが、緊張からタイミングや心に乱れが出て、制限時間内に打ち終わらず、失格になる人もいますからね。ファイナルとなれば、8名による勝ち抜きで順位を決定しますが、この時には、緊張もある程度ほぐれています。大会では技術はもちろんですけど、精神面の強化も必要になってくるので、もっとメンタルを鍛えたいですね。

◆ライフル射撃の魅力を教えていただけますか。
競技者の中には70歳で現役の人もいますし、年齢によって有利不利があるわけではありません。始めてからわずか数ヶ月で結果を出す人もいれば、練習を積み重ねて、次第に結果が表れてくる人もいます。体力もそこまで求められないので、誰でも気軽に挑戦できることが最大の魅力だと思います。また、実際にオリンピックでの参加国数は陸上競技に次いで多く、ライフル射撃は近代スポーツの一つと言われています。鳴門市では練習できる環境がありませんが徳島県内には練習施設がありますので、新しいことを始めてみたい方や向上心のある方は、是非挑戦してみてください。

◆地元である鳴門市に帰省された時はどのように過ごしていますか?
帰省した時も、ライフル射撃場に行きますね。練習しない日が続くと、本当に不安になるんですよ。周囲からは「帰省した時ぐらい休め」と言われますが、練習している時がいちばん楽しいですから。もちろん友人と出かけることもありますよ(笑)。実家での食事も楽しみの一つです。いつも鳴門に帰省すると安心と言いますか、落ち着くので、地元はやっぱりいいですね。

◆競技者としての今後の目標や夢を教えてください。
昨年初優勝を果たした全日本選手権での2連覇は達成したいですね。そして、2019年9月からは、東京オリンピックの出場権がかかる選考会がいよいよ始まります。これまで同様にしっかり練習を行い、オリンピック出場を掴み取り、世界からも注目される選手になることが目標です。あと、18歳以上になったので、警察への申請や面接をクリアのうえ、スモール・ボアと呼ばれる、火薬を使う銃を所持できるようになりました。これからは、50m3姿勢(膝射、伏射、立射)にも挑戦したいですね。また、これはまだまだ先の話になるとは思いますが、将来はコーチとしても一流になりたいです。自分が指導した選手がオリンピックに出場すれば嬉しいですよね。ただ、まずは自分自身との戦いが待っています。絶対に東京オリンピックに出場してメダルを取り、鳴門市に凱旋できるよう自分を信じて頑張りたいと思いますので、応援よろしくお願いします。

 

Vol.4 清水彰人さん

清水 彰人(しみず あきひと)
平成11年4月28日生まれ。鳴門市出身。板東小学校、大麻中学校、北区立稲付中学校、東京都立王子総合高校、ウエストバージニア大学。小学6年生からライフル射撃を始め、中学3年生の時に上京し、JOCエリートアカデミーの7期生に選ばれる。10mエアライフルでは、世界ジュニア選手権のエアライフル団体戦優勝、全日本選手権の個人戦優勝など、輝かしい成績を残す。現在は、ウエストバージニア大学に留学中で、2020年の東京オリンピック出場に期待がかかるライフル射撃界の期待のホープ。

 

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